SOHO企業家として生きる 08

SOHO企業家として生きる 08
「自治体の組織・人事の改革に取り組むコンサルタント事務所」

パブリック・マネジメント研究所 鈴木由朗
  • 「経営コンサルタント」のうさんくささ

     私の仕事は、組織・人事のコンサルティングである。いわゆる「経営コンサルタント」である。 しかし「経営コンサルタント」という職業は、世間一般には、あまり印象がよろしくない。新聞紙上で見かける「経営コンサルタント」は、脱税や詐欺の指南役として登場することが多い。会社社長やプロ野球選手を顧客にして、「いい方法があるよ」と悪知恵を働かせて世間を騒がせる。そんなイメージを持っている人が多いのではないだろうか。

     私は3年前に、川越市から長野市へ引っ越しをした。自宅兼事務所にする予定の物件はすぐに見つかったが、賃貸契約がなかなか先に進まない。やや気になり始めた頃に、不動産業者から契約成立の連絡があった。任せた不動産業者の手際が悪かったのだろうと思い、そのときは気にとめることはなかったのだが、後になって、大家さんが、私の仕事をいぶかしく思い、契約をためらっていたことが分かった。幸いにも私のことを知っている人がいて、口添えしてくれたらしい。

     大家さんの立場からすれば、世間様に迷惑をかけるような人であっては困るし、自宅が何かに利用されたり、ご近所とトラブルを起こしてもらっても困る。「経営コンサルタント」と言っても、いろいろあるから、ここは少し慎重に。ということだったのであろう。相手の立場で考えればしごく当然のことである。決して大家さんが悪いわけではない。

     そう言えば、はじめて「パブリック・マネジメント研究所」の表札をつけたとき、家内と家内の友人がいっしょになって「うさんくさいよね~。」と言っていた。世間一般には、「経営コンサルタント」とは“うさんくさい”ものなのである。

     「経営コンサルタント」は国家資格ではなく、通称である。だから、資格をとらなくても、「経営コンサルタント」を名乗ることができる。中小企業診断士、会計士、税理士などの公的資格を取得しなくても、相手に信頼できる「経営コンサルタント」であると思いこませることができれば、商売をすることが十分可能なのである。ただし、自称「経営コンサルタント」になることは容易かもしれないが、まっとうな仕事で実際に商売が成り立ち、人から信頼されるようになることは、現実にはかんたんなことではない。

  • 個人で仕事が出来る仕組み

     会計士、税理士などの本業を持っている場合を除くと、経営コンサルタントが個人で独立した事務所を持ち、自分の力だけで顧客を確保するには相応の努力が必要になるし、それなりの知名度も必要になってくる。

     経営コンサルタントの仕事は依頼された問題の解決を図ることにある。経営戦略の策定、人事諸制度の見直し、マーケティング戦略、コストダウンなど、経営コンサルタントのかかわる分野は多様であるが、顧問契約などの長期契約を結ばない限り、依頼事項を解決してしまえばコンサルティング業務はそこで完了となる。

     会計士や税理士のように固定した顧客を持てればよいのだが、ほとんどの場合、仕事が終われば、顧客との関係はそこで一旦切れてしまう。したがって、常に新しい顧客を開拓しつづけなければならない。著名なコンサルタントになれば、顧客側から「是非来て欲しい」と依頼されることもあろうが、知名度が十分でない状況では、常に自分を売り込む努力が必要になる。

     そこで、多くのコンサルタントは、コンサルティング・ファームと契約を結び、そのファームの一員となることで仕事を確保している。日本には、外資系、日系の各種コンサルティング会社や数多くのコンサルティング・グループが存在する。個人事務所を持つコンサルタントはいずれかのファームと契約することで、安定した仕事を確保できるようにしているところが多い。コンサルティング・ファームにとっては、差益を確保でき、幅広く多様な人材を活用できるメリットがある。コンサルタント個人にとっては、継続的な仕事の確保はもちろん、営業経費を抑えることができ、多様な仕事にチャレンジする機会を得ることになる。

     チャンスをものにすることで、実力をつけ、やがては自分を中心にして気が置けない仲間とコンサルティング・グループを形成すること。それが、多くのコンサルタントが考えている将来像であろうと思う。

  • コンサルタントの気骨と倫理観

     かつて、先輩のコンサルタントに次のような話を聞いたことがある。

    ――依頼を受けて、最初に訪問したときのことだ。まず担当者に「社長にあってほしい」と言われ社長室に入ると、社長は人払いをしてから、こんなことを言ったんだ。「君の仕事は、私のこれまでの会社運営が適切で間違いがないものであることを立証することだ。そのことを忘れないでほしい。」とね。これには正直言って困った。調査に入ると、社長のワンマン振りとその影響がはっきり出ていてね、とても社長の“ご意向”に沿った報告を出せる状況ではなかった。担当部長に結果を報告して逃げて帰ってきたよ。あとで“お咎め”がなかったのは相当運が良かったんだろうが、あれほど冷や汗をかいたことはなかったね。――

     これを読んで当然のことをしたと思われた方が多いと思う。コンサルタントは特定の利害関係者に利用されるようなことがあってはならないし、また、顧客に真に役立つことを考えて成果を実現しなければならない。先輩はこういったコンサルタントの倫理(「倫理綱領」として定めるところが多い。)に従って行動したのである。しかし、気骨がないとなかなかこうはいかない。個人で受託した仕事なら、契約が破棄されても他人様に迷惑をかけることはないが、これが、コンサルティング・ファームを経て依頼を受けた仕事ともなれば、火の子を被るのはファームの側であるし、場合によっては、それ以降の仕事がまったくなくなってしまう危険も覚悟しなければならない。

     コンサルティング・ファームとの契約で動くようになると、依頼された仕事はまず断れない。気が向かない仕事でも引き受けなければならないし、自分の得意分野以外でも、「どうしても」と頼まれれば引き受けざるを得ない。断れば、次からはそれに類する仕事は回ってこない。その可能性が高いからである。だから、コンサルティング・ファームとは十分なコミュニケーションをとっておかなければならない。先の先輩の話もそうであるが、コンサルティング・ファームの方針・戦略と、自分の倫理観、キャリア形成、将来の戦略とをどのように折り合いをつけていくか、それが重要なのである。単に一方的に使われているだけでは有能なコンサルタントにはなれない。自分の意志を貫くには、貫ける環境を自ら作らねばならない。コンサルタントもたいへんなのである。

  • 有名なコンサルタントは頑固者?

     「有名なコンサルタントは頑固者である。」といった話を聴いたことはないだろうか。私も以前にクライアント(顧客)から、「有名な○○先生にお願いしたんですが、こちらの考えを取り入れていただけず、調整にたいへん苦労しました。」という声を聴いたことがある。

     自分の考えを貫くことは必要であるが、それには十分な説明責任を伴っていなければならない。また、自分の考えに固執しているのであれば、「有名」ではあるが「有能」ではない、ということになる。

     「有能」なコンサルタントは柔軟な思考力を持っている。自分の考えにこだわるのではなく、顧客の発想、アイデアを極力生かそうとする。“もちは餅屋”というが、結局、自分たちの仕事について最も多くの情報を持っているのは誰あろう当事者本人である。すなわち顧客である。その発想を重視しない手はない。それに、自分たちで考え決めたことは自分たちで必ず実行しようとする。押し付けられたものでは、なかなか納得しないのである。コンサルタントはアイデアの玉手箱を持ってくると考えている方も多いだろうが、実際にはアイデアを引き出すノウハウを持ってくる、と考えていた方がよい。

     「有名」である条件には、第1人者である、本を出している、マスコミに出演している、などが考えられる。しかし私の知る限り、「有能」なコンサルタントの場合には、引っ張りだこであって、とても本を書いたり、マスコミに出たりしている時間がない。本来は論文を世に出して、知識、ノウハウを提供していくことも大きな役割であるのだが、メモを書き溜める程度が精一杯で、とりまとめる時間がないというのが実情である。

     仕事は部下に任せて、自分は執筆活動や講演に専念している方もいる。しかし、あまりにコンサルタントの実務から遠ざかってしまうと、時代の波に取り残され、過去の経験や知識に頼ったコンサルタントになってしまう。「有能」なコンサルタントは常にクライアントに接しているものなのである。

  • 私の専門分野~活動領域のご紹介

     「専門分野は何ですか」と質問されてどう答えようかと考えることがある。あまり狭い領域だとビジネスチャンスが舞い込んでこない。あまり広い領域を示すと、得意分野がないと思われてしまう。そこで次のように紹介することにしている。

    (1)人事考課制度、目標による管理制度、その他人事制度改革に関する診断指導
    (2)行政改革、組織改革、事務改善等に関する診断指導
    (3)組織活性度調査、住民意識調査等の企画・設計及び調査報告書の作成

     パブリック・マネジメント研究所の仕事では、上記の(1)がここ数年間で、最もコンサルティングの受託件数が多い。特に人事考課制度の設計と導入にかかわるコンサルティングが多く、現在はたいへん忙しい状況になっている。人事考課制度の設計・導入を例にどのような支援をするのか概略を説明すると、定期的にクライアントを訪問して、設計の進め方、作業の手順、留意点等を説明し、実際の協議や作業にも加わる。そして、当初の予定通りに人事考課制度の試行、本格運用が出来るように適時アドバイスやノウハウを提供する。ということになる。

     また、パブリック・マネジメント研究所の特徴は、民間企業よりも自治体からの受託件数が多い点にある。この特徴はその方向性を持って意図的に活動してきた結果ではなく、むしろ、私の過去の仕事と大いに関係していて、むしろ必然の流れに従った結果である。

     私は独立する前に、社団法人日本経営協会の経営研究センターで主任研究員を務めていた。「経営研究センター」とは、民間企業や自治体の経営診断、受託調査を請け負う部署で、私も当時からクライアントを任され、コンサルティングや調査分析などの各種の仕事を担当していた。社団法人日本経営協会は、自治体の行政改革、人材育成に力を入れて活動してきた団体であるため、自治体向けの行政診断、計画策定、研修講師の派遣、通信教育などの事業も展開している。必然的に、「経営研究センター」で請け負う仕事も、自治体から依頼されたものが多かったのである。

     自治体は民間企業とは異なる特徴を持っている。一般に知事や市町村長は政治のプロであって経営のプロではないこと、自治体の組織や事務には根拠となる法令が深くかかわっていること、法令や国の通達による執行スタイルが長期間続いたために、計画的統制的な管理、受動的な対応といった行動様式が定着してしまったこと、などがある。

     市役所の窓口でいやな思いをさせられた。職員の態度や対応がなっていない、住民サービスに柔軟性がない、など、自治体に不満を持っている人は多い。私も、某自治体の行政改革委員を務めているが、委員からの問題提起の発言を聞いていると、圧倒的に職員に対する不満、対応のまずさを指摘する声が多い。これらを職員個人の問題にすることは簡単だが、そうしてしまっては何の解決にもならない。やはり、組織や人事のどこに問題があるのか根本的な原因を把握した上で、将来に向けた処方箋を描くことが必要になる。

     それが上記(2)の私の専門分野、「行政改革、組織改革、事務改善等に関する診断指導」である。自治体組織の再編成の提案、施策管理システムの再構築、自治体人事施策の見直しなど、取り扱ったテーマはさまざまで、各種の診断指導を通じてノウハウを高めることができた。先に紹介した(1)の人事制度にかかわるコンサルティングも、元はといえば、自治体の組織体質の研究がきっかけであった。組織の変革のためには人事制度の改革が必要という想いから、諸先輩から学び自分で研究し、専門分野として確立してきたわけである。

     しかし、行政改革や組織改革にかかわる診断指導となると、いくつもかけもちで仕事をするわけにはいかない。本格的にかかわるとなるとかなりのエネルギーを必要とするからだ。また、自治体の特質をつかんでいないと手の出しにくい領域でもある。民間企業で成功したからといって特定の経営手法をそのまま用いることはきわめて危険であるし、頂戴するお金は税金であるから、当然に住民に対する責任というものを強く意識して仕事を進めていかなければならない。正直言ってしんどい。しかしやりがいのある仕事である。

     上記(3)の「組織活性度調査、住民意識調査等の企画・設計及び調査報告書の作成」も社団法人日本経営協会の研究員のときに身に付けた知識・技術がもとになっている。当時、国の調査を請負っていたシンクタンクから社団法人日本経営協会に転職した方がいて、統計学の勉強だけではわからない調査設計、分析等のノウハウを、実務を通じて指導していただいた。今でもたいへん感謝している。

     ただ、この経験は、多変量解析などの高度な分析が出来ようになったということにとどまらず、世の中には不十分な調査を元に結論を導いている事例がいかに多いかということ、さらに、意図的な結果を導く調査分析も盛んに行われていることを知るきっかけとなった。ダレル・ハフ博士が書いた「統計でウソをつく方法」は、たんへん楽しくわかりやすい本である。是非とも読んでいただき、「ウソ」を見破る目を持ってもらいたいと思う。

  • ホームページと質問メールの効果

     独立したのは1999年である。埼玉県川越市の自宅の1室を事務所にした。社団法人日本経営協会を円満退職することができたこともあって、当時すでに、社団法人日本経営協会のコンサルティング事業の一部を請け負うかたちになっていた。だから、開業時のたいへんな苦労を経験せずにスタートできたわけである。

     独立してまもなく、「パブリック・マネジメントのページ」という名のホームページを作成した。過去2回全面改訂して、現在は3代目である。自治体の改革に参考となる情報を発信したいという考えで、当初は、自分で書いた論文を中心に掲載していた。今でもそのスタンスは変わらないが、パブリック・マネジメント研究所のホームページとリンクさせ、少しずつ充実させている。

    最近では、アクセス件数がかなり増えているようだ。研修講師として、公務員制度改革への対応にかかわる研修や、人事考課者研修を行う機会が増えているため、受講者からのアクセスが多いのではないかと考えられる。

     また、人事考課に関する質問メールを無料で受け付けるようにした。人事担当の悩みを率直に打ち明ける方もいれば、コンサルティングの予算を獲得するために効果的な説得方法はないかと相談する方もいる。まだまだ問い合わせ件数は少ないが、いずれも真剣な内容であるから手を抜いて回答するわけには行かない。当初は、受託に結びつけばという想いがあったのだが、これまで1件も受託に結びついたものはなく、見事に当てが外れてしまった。しかし、やってみると興味深いテーマであったり、自分の刺激にもなるので、「こういうボランティアもあってもいいんじゃないか。」と思えるようになった。

     むしろ、こういったものは、商売抜きでやるべきものかもしれない。我々の仕事は企業や自治体といった経営体を対象に仕事をしているが、メールを送ってくる方は個人の立場で相談しようとしているのである。そのような個人からお金をいただくわけにもいくまい。無料のオン・ディマンド・サービスを使った自己アピールのツールと割り切って考えた方がよさそうである。

     いずれにしても、ホームページは情報発信のツールとして有効に機能しているようである。最近では、研修やコンサルティングで訪問すると、必ずと言っていいほど、「ホームページを拝見しました。」という話になる。前もってインターネットで人物を検索し、どのような考えや実績があるか確認してから契約する、今はそういう時代なのである。

    (注)2007年7月現在、ホームページは4代目である。また、ありがたいことに仕事に結びつく問い合わせが増えている。

    平成15年11月 長野市の自宅にて